鼓腹撃壌

2020年6月8日月曜日

十八史略

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鼓腹撃壌       十八史略


帝尭陶唐氏、帝嚳子也。 
帝尭陶唐氏(ていぎょうとうとうし)は、帝嚳(ていこく)の子なり。 
帝尭陶唐氏は、帝嚳の子である。


其仁如天、其知如神。 
其の仁は天の如く、其の知は神の如し。 
その仁徳は天のようであり、その知恵は神のようであった。 


就之如日、 
之に就けば日の如く、
これ(尭)に近づけば太陽のように暖かく、


望之如雲。
之を望めば雲の如し。 
これ(尭)を遠くから見ると(恵みの雨を降らす)雲のよう(に偉大)であった。 


都平陽。 
平陽に都す。 
(尭は)平陽を都とした。


茆茨不剪、
茆茨(ぼうし)剪(き)らず、 
(宮殿は)かやぶきで軒先は切りそろえず、


土階三等。 
土階三等のみ。
(宮殿へあがる階段は)土で築いた三段だけであった。 


治天下五十年、不知天下治歟、不知歟、 
天下を治むること五十年、天下治まるか、治まらざるか、
(尭が)天下を治めて五十年になるが、世の中が治まっているのか、いないのか、

億兆願戴己歟、不願戴己歟。
億兆己を戴(いただ)くを願ふか、己を戴くを願はざるかを知らず。 
万民が自分が天子であることを望んでいるのか、いないのかがわからなかった。


問左右不知、問外朝不知、問在野不知、 
左右に問ふに知らず、外朝に問ふに知らず、在野に問ふに、知らず、
側近にきいてもわからず、民間人にきいてもわからず、民間の識者にきいてみたがわからないので、 


乃微服游於康衢。
乃ち微服して康衢(こうく)に游ぶ。 
そこで身なりをやつしてにぎやかな大通りに出かけたところ、


聞童謡曰、 
童謡を聞くに曰はく、 
(子どもの歌う)童謡を聞くと、歌っていたことには、


「立我烝民、
「我が烝民(じょうみん)を立つるは、 
「私たち万民の生活を成り立たせているのは、


 莫匪爾極。 
 爾(なんじ)の極に匪(あら)ざる莫(な)し。
 あなた様のこの上ない徳のおかげでないものはありません。


 不識不知、順帝之則。 
 識(し)らず知らず、帝の則(のり)に順(したが)ふ。」と。
 知らず知らずのうちに、帝の手本に従っています。」と。


有老人、 
老人有り、
とある老人がおり、

含哺鼓腹、撃壌而歌曰、
哺(ほ)を含み腹を鼓(こ)し、壌(つち)を撃ちて歌ひて曰はく、 
食物をほおばり腹つづみをうち、足踏みして調子を取って歌いながら言うことには、 


「日出而作、日入而息。 
「日出でて作(な)し、日入りて息(いこ)ふ。 
「日が昇れば仕事をし、日が沈んだら休む。


鑿井而飲、耕田食。 
井(せい)を鑿(うが)ちて飲み、田を耕して食らふ。 
井戸を掘っては水を飲み、畑を耕しては食事をする。 


帝力何有於我哉。 
帝力何ぞ我に有らんや。」と。
帝の力なぞどうして私に関わりがあろうか、いやない。」と。
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(尭は、自分の政治が、国民に自分を意識させることなく、
 豊かな生活が営めることを実現できていると知った。) 

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