四面楚歌

2020年6月7日日曜日

史記

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四面楚歌         史記

四面楚歌とは、
敵や反対する者に囲まれて孤立していること、
またはその状態を意味します。 


項王軍壁垓下。 
項王の軍垓下に壁す。
項王の軍は、垓下の城壁の中に立てこもりました。


兵少食尽。 
兵少なく食尽く。
兵の数は少なく、食料も尽きてしまいました。


漢軍及諸侯兵、囲之数重。 
漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。
漢の軍勢(沛公)と(それに味方する)諸侯の兵士は、城壁を幾重にも包囲しました。


夜聞漢軍四面皆楚歌、
夜漢軍の四面皆楚歌するを聞き、
ある夜に、漢の軍勢が四方で皆、(項王の故郷の)楚の歌を歌うのを聞いて、


項王乃大驚曰、 
項王乃ち大いに驚きて曰はく、
項王は大変驚いて言いました。


「漢皆已得楚乎。 
「漢皆已に楚を得たるか。 
「漢はすでに楚を手中におさめたのだろうか。 


是何楚人之多也。」
是れ何ぞ楚人の多きや」と。
(漢軍の中に)なんと楚の人間が多いことか。」と。


項王則夜起飲帳中。 
項王則ち夜起ちて帳中に飲す。 
項王はそこで、夜に起き上がって本陣の中で宴を開きました。


有美人、名虞。 
美人有り、名は虞。 
(項王の元には)美人がいて、名前を虞と言いました。


常幸従。 
常に幸せられて従ふ。
いつも寵愛されて、付き従っていました。


駿馬、名騅。 
駿馬あり、名は騅。
(項王の元には)駿馬がいて、名前を騅と言いました。


常騎之。 
常に之に騎す。
(項王は)つねにこれに乗っていました。 


於是項王乃悲歌慨、自為詩曰、
是に於いて項王乃ち悲歌こう慨し、自ら詩を為りて曰はく、 
そこで項王は悲しげに歌い、激しく心をたかぶらせて、自ら詩を作って歌いました。


力抜山兮気蓋世 
力山を抜き気世を蓋(おほ)ふ 
私の力は山を引き抜き、気力は天下を覆うほどであった。


時不利兮騅不逝 
時利あらず騅逝かず 
(しかし)時勢の利は(もう我々には)なく騅は進もうとしない。


騅不逝兮可奈何 
騅の逝かざる奈何すべき 
騅が進もうとしないのをどうすることができようか、いやできない。


虞兮虞兮奈若何
虞や虞や若を奈何せんと。
虞よ虞よ、お前をどうすればよいのか、いやどうしようもない。


歌数、美人和之。
歌ふこと数けつ、美人之に和す。
歌うこと数回、虞美人はこれ(項王の歌)に合わせ(て歌い)ました。


項王泣数行下。 
項王泣数行下る。
項王は幾筋かの涙を流しました。


左右皆泣、莫能仰視。 
左右皆泣き、能く仰ぎ視るもの莫し。 
(項王の)側近の者は皆泣き、誰も顔をあげて(項王を)正視できませんでした。 

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